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大森の中西夏之先生。

2016年 11月 06日

この数年は寂しいニュースが続く。先月、美術家の中西夏之さんが亡くなられた。近年は名誉教授として芸大にも籍を置いておられた。現代美術、前衛芸術家として美術界を牽引されてきた方だ。そんな中西先生、ある時期、ご近所に住む画家として同じ町に住んでいた。
80年代の大森、中西先生のアトリエは山王の山に、私もアトリエにしていた山王の小さなアパートに住んでいた。私は大学にもいまだ行かれずぶらぶらと「浪人」時代を過ごす画学生。ぶらぶら観えても出来の悪い本人は深刻な時代だった。町の食堂にいると不良品のような私に「お兄ちゃんてさ〜何やってんの?」なんてよく聞かれたものだ。
大森には葡萄屋という老舗の喫茶店があり昔はビアホール、また喫茶店があった。そこは地元の作家たちが集まる憩いの場所。タバコをモクモクさせながら、暫し恩師の画家、故三村博美先生と過ごしたものだ。中西先生とも葡萄屋で、ばったりお会いしたりしたことも。中西夏之といえば当時、日本のマルセルデュシャンみたいな偉く近寄りがたい作家という印象だったが、大森の池上通りをグレーのコートを羽織り、眼光するどく歩く中西先生をよくお見かけした。すでに美術界では知られた方だが、話されると物腰はとても柔らかく、私にもよく優しく声を掛けてくださったのを覚えている。
大森には、池上通りの商店街がある。その傍らに老舗の画材店があった。私は当時バイトでその店に勤めていた。大森に住まう作家たちは必ず利用するお店。その画材店に中西先生も現れ「あの、乾かない絵具ありませんかね」などと画材店の店主を困らせたエピソードも。良く来店されるとても良いお客さんだった。その後、長い時間を経て大森のとある喫茶店で偶然お会いし、久しぶりにお話をさせていただいた。最近では、芸大の食堂で佐藤一郎先生の退官のレセプションでのスピーチなどでもお見かけした。
大森時代は、恩師の三村博美先生、親しくお付き合いさせていただいた金子國義先生が居られ、そして中西夏之先生はじめ、様々な作家や画家、舞台系の芸術家など、また文士村としても知られた大森には、なにか独特な空気があった。私の幼稚園児代には三島由紀夫さんのご子息も同級生だった。お父さまも時折、幼稚園に現れた。さまざまな作家や芸術家がクロスオーバーした街。中西先生のごご冥福を心よりお祈りしたい。
時折思い出す、辛くて面白かった大森の時代。先生たちは旅立たれ思い出も寂しいが、その頃の志は忘れたくない。
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by ogatajun | 2016-11-06 21:39 | Comments(0)